11月21日は国立文楽劇場へ
文楽公演 第一部「心中天網島」に伺いました。

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心中天網島は、亨保5年に起きた心中事件を題材に
晩年の近松門左衛門が書き上げた浄瑠璃です。

既に心中を決意している2人と、なんとかして止めよう、
命を救おうとする周囲の人々が織りなす人間模様を描き出した傑作で、
多くの方々が、この浄瑠璃について、研究論文や解説、コラム、
エッセイなど、様々な形で考察、感想を述べていはります。

私も文楽を観る前に、数冊、関連書籍を読んでから伺いました。

すでに日が経ってしまいましたが感想を下記に少しだけ。
お席1列16番にて

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心中天網島 
河庄の段


この段は紋日の北新地から始まります。
お三味線のツヤっとした賑やかさ、浮かれた様子とは逆に
太夫の語りは、冒頭から、小春の死を暗示します。
始まりと同時に、結末を観客に聞かせているのですね。
そんな不穏な空気が漂ったところに、小春が静かに登場します。

そこから先は、小春と孫右衛門のやり取り、
治兵衛のDV、本心を偽る小春の悲しみなど
最初から最後まで、しんどいシーンの連続なんですが

幸いに(なのか)、途中、ジャイアン太兵衛と善六の
クソ憎たらしいコミカルなやり取りが、一息つかせてくれます。

花車や後輩女郎、下女など、脇役一人ひとりのキャラも立っていて
語り分ける太夫さん、お三味線さんは大変やろと思うのですが

織さん、清介さん、ヨカッタです。
口三味線は笑いました。おかげで和みました。

津駒さんと清治さん、とても良かった。
清治さんのお三味線は、いつもながら華麗で
悲しみにくれる小春の涙が、キラキラと輝いて
落ちる様が見えるようでした。

人形は、まず、簑助さん小春。絶品でした。
お師匠様が使う小春に、お弟子さんである
勘十郎さん治兵衛がビンタを食らわす
あのシーンは、色んな意味でドキドキした(;・∀・)

簑二郎さんの小春も、もちろん良かったです。

勘壽さんが太兵衛をお遣いになられていたのは驚きでした。
こういう役も遣わはるんやなあと。

勘壽太兵衛、清五郎善六コンビは
絵になっていて、見ていて楽しかったです。

紋臣さんの花車はとても良かったです。
原作を読んだ時、正直、花車は印象が薄く、
相関図にも載せなかったのですが
ここまでキャラが立ってるとは思わんかった(*´ω`*)

孫右衛門は、河庄のメインキャラともいうべき役で
静かな動きの中に、多くの事を表現せなあかんという
魅力的なぶん、難しい役どころです。
玉助さん、どうかご精進下さいますように。

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紙屋内の段

紙屋の内と外をテキパキ取り仕切るおさんの傍らで
小春と別れた治兵衛がコタツに入って昼寝しているシーンから
この段は始まります。

小春との事で色々あったけれど、治兵衛は戻ってきた。
やっと今まで通りの日常がまた始まる、と、思わせて
物語は急転直下、

小春の死を予感したおさんが、夫の面目、
女同士の義理のために、仕切り金から着物まで、
全てを投げ出して、夫の愛人の命を守ろうとします。

その時、離れかかっていた治兵衛とおさんの心は一致団結、
夫婦の繋がり、綱をぎゅっと結び直したかに見えたのですが、

怒り心頭の舅が来て、おさんを連れ帰り
再び結びついた二人の綱は解かれてしまいます。

とにかく登場人物も多いし、場面転換も動的で、
簡単に筋を書いてるだけで疲れるような
ダイナミックな一段です。

人形は、とても良かった。

この段のメインキャラはおさん。
清十郎さん、素晴らしかった。
「そうや!これがおさんや!」と、
思わず心の中で、つぶやいておりました。

舅五左衛門の玉輝さんも良かった。

勘十郎さんの治兵衛は勿論です。
コタツに入って涙を流す、あの表情が何とも色っぽく
「これは小春も惚れる罠」と、思うてしまいました。

大和屋の段

満月の真夜中、透き通った冷たい空気の中で
治兵衛は小春と、心中の段取りを取り付け
全ての支払いを済ませます。

心中を心配する孫右衛門は、丁稚に勘太郎を背負わせ
大和屋を訪ねますが、治兵衛を見つける事は叶わず。

その姿に手を合わせ、治兵衛と小春は心中へと向かうのです。

咲様、燕三さん、素敵でした。

咲様のお声は、すっと劇場に響いて
燕三さんの、お三味線とともに
劇場を、透き通った冷たい夜に変えてしまいます。

そこで起きている出来事は
切なく、儚く、悲しいのですが
禊のような美しさを感じておりました。

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道行き名残の橋づくし

この道行きは本当に美しい。

原作に登場する橋を、全ては謡いませんが、
舞台では、多くの橋を超える様子が展開されます。

三輪さんがリードするお浄瑠璃は本当に美しく
うっとりと聴いておりました。

いよいよ心中で、治兵衛に手を合わせる
小春の表情は、何とも言えず良かった。
今も思い出してしまうほどです

なのに、ラストシーンはどこか現実的で生々しく
2人は苦しみの中で死んでいく。

このバッサリ感。いいですね。
やり切れなさを残してくれる。

見事なエンディングにございました。


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文楽はここで終わりますが、原作では
2人の亡骸は漁師の網にかかって発見されます。

この結末から、
近松は2人の魂を見捨てはせんかった
最後の最後に救うたんやと、私は思うております。

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心中天網島は、近松が編んだ、浄瑠璃という名の網を
何度も解いては結び、解いては結びながら、
読んで、聴いて、見る事で、
観客もいつしか網の中に編み込まれていく、
そんな作品やないかなと思います。

一度では足らないので、またぜひ文楽でかけて下さいませ。
よろしくおねがいします(*´ω`*)